『アリスギアマガジン』で収まりきらなかったインタビューや、
ちょっとした小ネタなど、制作の中のこぼれ話をちょっとだけご披露します!

第 1 回

アリスギアマガジンVOL.10 巻頭特集

『アリス・ギア・アイギス』サウンドこぼれ話

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■出席者

 石川勝久 (ZUNTATA)
 下田 祐 (ZUNTATA)
 小塩広和
 柏木准一 (ピラミッド)
 加賀 純 (ピラミッド)

 

「アリス・ギア・アイギス」の音楽ファン層
──一般的にスマートフォンのゲームではBGMをあまり聴いてもらえないので、それをなんとかしたいというのが、そもそも「アリス・ギア・アイギス」でZUNTATAさんを起用した理由だったそうですね。結果としてはどうだったでしょうか?

柏木:普通のスマートフォンのゲームに比べると、確実に多くのお客さんに聴いてもらえていると思います。ユーザーは20~30代が中心なので、本作で初めてZUNTATAに触れたっていうお客様も多いでしょうね。もっともSNSで一番盛り上がってくださっているのは、それより上の世代かなという気がしますが。

──ZUNTATAさんには、若い世代のファンが増えてきている手応えってありますか?

石川:そうですね。SNSでZUNTATAのことはよく知らないままに「音楽いいね」とか「今回のイベント曲もぶっとんでいるね」とか言ってくれている方も見かけるので、少なくとも新しいファンが育つきっかけにはなっていると思います。

──ゲーム内で行われるZUNTATA楽曲イベントも、これまでZUNTATAを知らなかった層に、過去の名曲を知ってもらえるきっかけになっていると思います。あれは柏木さんのほうからご提案を?

柏木:そうですね。最初のサントラCDを出したときに、これまでにZUNTATAがどんな楽曲を作ってきたか皆さんに知ってもらいたい、できれば過去のZUNTATAサントラにも興味を持ってもらいたいということで、僕や他のスタッフがオススメの楽曲を紹介していたのが、あのイベントの発端なんですよ。「懐かしい」って喜んでくださった人は結構いました。

石川:いっぽうで、若い世代には「さっぱり分からない」という人たちもいたとは思いますけどね(笑)。そこはまあ敢えて、それでもいいのかなっていう。

柏木:「ギャラクティックストーム」の曲が「アリス・ギア・アイギス」で鳴ったときには、僕自身結構感動しましたね。

石川:音源がPCMになって以降の曲は、結構映えますね。さすがにFM音源時代のものが鳴ると、時代の乖離を感じますけど。

柏木:いやあ、「メタルブラック」あたりでも僕は合ってるなと思いましたよ。あの曲が演奏される時には、敵の出現パターンまで「メタルブラック」っぽくなるよう、レベルデザイナーが頑張って合わせてくれたりしたんです。「レイフォース」などもそうですね。

石川:曲とレベルデザインを合わせるというのは、往年のタイトーシューティングがやっていたメソッドですよね。別にこちらからそうしてくださいとお願いしたわけではなくて、ピラミッドさんのほうで自発的に、そんな風にしてくださったんです。そういう意味で実は「アリス・ギア・アイギス」はタイトーシューティング音楽のもっとも正統な後継者なのかもしれません(笑)。

柏木:「アリス・ギア・アイギス」はスクロールシューティングではないから、そんなに厳密に敵の出てくるタイミングをコントロールできるわけではないので、あくまで「なんちゃって」ではあるんですけどね。理想的なタイミングで戦ったら、そのように鳴る感じに組んでもらっています。

 

ZUNTATAサウンドの伝統と、そこからの影響
──小塩さんの楽曲は往年のタイトーシューティング、特に「レイ」シリーズの音楽的伝統を意識しているようにも感じました。そのあたりどうでしょうか?

小塩:なかなか鋭い質問ですね。(最初に完成したバトル曲である)「SILVER SKY」を書き始めるまでにいろいろ試行錯誤があって、僕なりにまず「90年代らしさ」について考えたんですけど、90年代ってシューティングの音楽にとって、転換点だったなと思うんですよ。80年代のものは基本的に明るい。「これから戦いに行くぞ」みたいな曲が多かったですよね。

──「ダライアス」で言えば「CAPTAIN NEO」のような。

小塩:そうです。そして00年代には、ドラマチックで荘厳な、どちらかというとシリアスな方向の曲が主流になりました。で、90年代のテイストってちょうどそのふたつの中間なんですよ。そうした中でも、明るさの要素とシリアスさの要素を非常にいいバランスで両立させていたのが「レイ」シリーズだと僕は思っていて。たとえば「レイフォース」の5面「INTO THE DARKNESS」とか、最初は不協和音を中心に使ってけっこう重々しく進みますけど、サビになって急に明るくなるんですよね。僕はこの曲のバランス感覚が凄いなと昔から思っていて、実は結構そこから影響を受けているんですよ。

──それが「アリス・ギア・アイギス」にも?

小塩:はい。「SILVER SKY」を作るにあたっても、底抜けに明るいだけではダメだなと思ったので、シリアスな要素を入れようと思ったんです。そのバランスの参考になったのは、やはり「レイ」だったなと思いますね。(後にメインでバトル曲を書くようになった)MASAKIも、「VANGUARD」や「VERKIRIE」では僕のそのあたりの姿勢までよく研究してくれているなと思って、嬉しかったです。

 

資料がない!

石川:僕らZUNTATAは「アリス・ギア・アイギス」のような、ステージの順番が定まらない運営型でのシューティングゲームの音作りってあまりやったことがなかったんですよ。ZUNTATAがよく手掛けるのはステージクリア型のゲームで、それだとBGM全体を通しての「流れ」を作ることができるんですけど、運営型ではBGMがどういった順番で演奏されるか分からないので、そうした「流れ」を作ることができないわけです。少ない資料を元にどうやって曲にバリエーションを持たせるか。そこを考えるのが難しかったですね。

柏木:最初のサントラCDでいえば、2/3くらいの曲は画面をあまり見られない状態で作ってもらっていますね。

小塩:バトル曲はだいたいそうでした。

柏木:ただ僕らのほうは後期の「ダライアスバースト」シリーズで、ZUNTATAさんからいただいた曲をステージに配置して流れを作るという作業をやっていたので「どういう曲がどれくらいあったら、こういう演出を作り出せる」という感覚はあったんですよ。「アリス・ギア・アイギス」はスクロールゲームじゃないので、「ダライアスバースト」ほど細かい調整はできないわけですが、ステージをまたぐ時にBGMを持続したり変更したりと、様々なパターンを用意することで、飽きることなく長く聴いてもらえる仕組みは作ったつもりです。

──資料がない状態で進めるとなると、ゲームのスピード感やテンポ感も掴みにくかったのではないでしょうか?

石川:そこは確かに難しかったですね。なにしろ映像が全くなかったので。とりあえず「普通の横スクロールシューティングくらいの感覚だろう」と想定して進めました。

小塩:僕のほうでは「SILVER SKY」のテンポを基準しつつ、それより多少速い曲やゆったり目の曲もいくつか作って、テンポにバリエーションを持たせるようにはしていました。これくらいあればどこかにハマるだろう、みたいなつもりで。

石川:僕は最初、もっとディープなテクノ寄りの楽曲を中心に考えていたんです。そうじゃないものは小塩のアイデアで出てきたものが多いですね。最終的に出来上がったゲームは思った以上に幅が広いものになっていたので、もしテクノでガチガチに固めてしまっていたら、後で苦労していたでしょうね(笑)。

小塩:女の子キャラメイン主体のゲームにディープなテクノばかりじゃなあって思って。

石川:僕は逆で、開発段階ではストーリーのシリアスさが際立っていたので、ハードにまとめたほうがかっこいいかなって思ったんですよ。

 

ZUNTATA史上最高の曲数&効果音数

石川:「アリス・ギア・アイギス」のサウンドを手掛け始めて、なんだかんだでもう4~5年になりますけど、ひとつのタイトルでこれだけのBGMと効果音を作ったのは、ZUNTATA史上初ですね(笑)。効果音もすごい勢いで増え続けています。

──作ったけど使われていない効果音も、実は結構あるとか?

石川:はい。実は効果音は、開発途中で半分くらい差し替えているんですよ。特に武器関係の効果音ですね。最初はもうちょっとゲームっぽい音で作っていたんです。実際のショットガンやライフルの音に似せるのじゃなくて、記号的に理解させるというか。

柏木:でも途中で開発陣にこだわりの強い人が加わって、もうちょっとリアル寄りの音が欲しいという話になったんですね。じゃあ石川さんに相談してみてくださいって言ったら、いつの間にか大量に入れ替わっていたという。

石川:結局、武器関係は全部入れ替えたんですよ。あれはなかなかシビれましたね(笑)。そういうことがあったので、全体的なサウンドデザインのコントロールは途中からちょっと難しくなりましたね。リアル寄りすると逆に記号的には(存在感が)分かりにくくなるので、音量の調整とかで分かりやすくする方向に切り替えたんです。

柏木:BGMをオフにすると、たとえば換気扇の音とか、かなり細かい音が、そこらじゅうで鳴っていたりするんですよ。これはもうスマホのゲームサウンドじゃないよねっていうくらいに。ヘッドフォンを付けないと分からない音も結構多いですね。

石川:個人的にはもうちょっと整理したいですけどね(笑)。

柏木:プログラマからも「このままではメモリ的に結構大変です」って言われています。そろそろなんとかしないと、システムを破壊してしまうくらいに効果音の量が増えているんです(笑)。

加賀:使っていない音もかなりありますけど、通し番号だけで言うと1000個くらい作ってもらっています。

小塩:シューティングゲームなのにAAAタイトルみたいなことになっていますね(笑)。

加賀:今後もまだまだ増えると思います。コラボイベントでさえ、新規に全効果音を作ってもらうことがあったりするんですよ。実はコラボ原作の音って、意外とそのまま使えなかったりするケースが多いんです。だから似た音を作ってもらって。

小塩:効果音といえば、野球イベントの時に事務所のなかにバッティングマシーンが登場しましたよね。あれが面白すぎて。突然「スコーン」っていう音が大音量で鳴って、何事だってビックリするんですよ(笑)。

柏木:更衣室にいても聞こえてくるから、「なんだこの音は?」ってなりますよね(笑)。いろんな人からいろんな要望が出て、それが全部石川さんのところに集められて。効果音関係の相談は、いつも締め切り直前に石川さんのところに行くので、だいぶカオスな状況になっていると思います。

──そのカオスを石川さんが的確に捌いた結果、予期せぬ音風景が生まれることもある……ということなんですね(笑)。

 

ミニゲームBGMへのこだわり

柏木:ミニゲームのサウンドが、どれも非常に印象に残っているんですよ。「CITY DEFENDER」(2019年のエイプリルフール限定ミニゲーム)の時は、リリースの前日くらいに効果音を作ってくださいとお願いしてしまったんですよね。レトロゲームな画面なのに通常戦闘シーンのリアルな爆発音が使われていたので、これはないなということで。

石川:あれは画面を見せてもらった時、僕自身もそう思ったので、自分から「それっぽいのを作らせてください」って言っちゃったんですよ。まあ別に作らなかったからといって、ユーザーから苦情が出たりはしないんでしょうけど(笑)。

──ZUNTATAの看板を背負っている以上、そこはきっちりやらなければいけないぞと。

石川:そういうところもありましたね。その後「みりえの挑戦状」イベントが来て、今度はファ○コン的に行きたいので、BGMも3音+ノイズで作って欲しいということになって。

──ファ○コンは、昔から音源チップの音にこだわりのある下田さんの得意分野ですね。

下田:はい、せっかくなので実機でやっています。楽しく作らせていただきました。某社で「ロックマン9」とかの音楽をやっていた頃は、まさか将来タイトーで「たけしの挑戦状」の追加曲を作ることになるなんて思わなかったですけど(笑)。

柏木:10年以上こういう音を作っておられる下田さんの蓄積がしっかり出ているので、聴き応えがあるんですよ。「ピッピでGO!」(2019年のエイプリルフール限定ミニゲーム)の曲もすごく良かったですよ。あれは16ビット機風というか。

石川:この時は矩形波にPCMも少しだけ入れて、ぶっちゃけゲーム○ーイアドバンスくらいのスペックで下田に作ってもらいました。

下田:PCMはストリングスとスネアだけなんですけど、合計サイズは64キロバイトに収まるようにしています(笑)。

石川:作った本人以外には、わけのわからないこだわりですが(笑)。

柏木:いや、その制約の話を聞いて、すごくかっこいいなって思いましたよ。

下田:ありがとうございます。「ピッピでGO!」はゲームが異様に難しいので、あの曲を何度も何度も聴くことになった人も多いと思います。そうでなくても曲がシンプルなので、ものすごく耳に残るんですよね(笑)。

柏木:今年ダントツで一番多く聴いた「アリス・ギア・アイギス」の曲がこれだったっていうことになりかねないです。じっさい1~2時間はプレイしないと出ないようなハイスコアを叩き出している人もいたので(笑)。

 

事務所にもそろそろ新BGMを!

加賀:僕は事務所画面のBGM「GREEN OFFICE」が開発中からずっと好きだったんです。

小塩:それは嬉しいなあ。ありがとうございます。

下田:ゲーム中、いちばん多く聴くことになる曲ですね。

加賀:ゲームが起動したら必ず最初に流れるわけですけど、実はそのポジションはイベント等があっても絶対他の曲に譲らないようにしてきたんです。

──密かなこだわりなんですね。

加賀:もし他のものに変えるのであれば、やはり同じ人の曲であって欲しい。そこで小塩さんに「GREEN OFFICE」のリミックスをやっていただけないかなと思いまして。小塩さんのライブ(アリスギア音楽祭2020)におけるリミックスが凄く良かったので、ぜひ「GREEN OFFICE」のリミックスもお願いしたいなと。

柏木:事務所に季節感がないって、よく言われるんですよ。なのでできれば毎月1回、計12曲。

石川:季節感を言うのであれば、まず事務所に窓を付けてくださいよ(笑)。

柏木:それはなかなか大変なんですよ。

小塩:いや、けっこう嬉しいオファーかも。実は僕は今年から「メニュー曲職人」を目指しているんです。

石川:なんだそれ(笑)。

小塩:メニュー曲といえば小塩って言われるようになりたいんですよね(笑)。

──願ったり叶ったりですね。

加賀:できることなら、朝夕でもリミックスを変えて、計24曲……。

小塩:そんな大量に! いや、やってもいいんですけど、プログラマさんに怒られるのでは!?(笑)。

石川:ただでさえデータ量がたいへんなことになっていますからね。でも技術的には、やろうと思えばできますよ。

加賀:それで最終的には「GREEN OFFICE」だけでCDを1枚出したいんです(笑)。

石川:なんてディープなCDだ(笑)。

加賀:いや、ネタみたいに聞こえるかもしれませんけど、これから何年も運営を続けていくと、アレンジ違いやリミックスを聴きたいっていう要望は、お客様からも多く出てくると思うんですよ。

石川:聴き飽きられてきた部分は差し替えていきたいなっていう気持ちは、確かに僕にもありますね。

小塩:そういうことなら、やりましょう(笑)。あと、高難度のバトル曲も挑戦してみたいと思っています。通常のバトル曲は、もうひととおりのネタはやったかなと思うので、今度は違う方向から攻めてみたいんですよね。

下田:ああ、それは僕もぜひやりたいです。もっと自分らしさを出せますからね。

──皆さんそれぞれに、そろそろリミッターを外していきたいというお気持ちがあるわけですね。そういう展開がありうるのも「アリス・ギア・アイギス」ならではということで、今後を楽しみにしたいと思います。ありがとうございました!

 


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